フリッツ・カーター『愛するとき死ぬとき』について

12月1日から早稲田小劇場どらま館で上演の『愛するとき死ぬとき』について、こちらで少し紹介しておきます。

☆あらすじ

この戯曲は3部構成になっています。

Aある青春/合唱 B古い映画/グループ Cある愛/二人の人間

Aは東西ドイツ統一前の東ベルリンにいる16歳から18歳の若者が、サッカー、ディスコ、クラス旅行や、女の子や酒の話などからめてモノローグ(一人語り)する形式です。

読むと空気感と一風変わった形式もわかりやすいので引用してみます。

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俺はマリオンとアーニャにはさまれて交通が遮断されたシュトラウスベルク広場に立っていたチャイカとタトラの大きなリムジンはまだ見えない二人とも俺と腕を組んでいる俺はわざわざ緑のコールテンのスーツを着てきた大人になったらきっとハンサムな男になるわとアーニャが言ったマリオンは巻き毛だ半分はパーマで半分は天然よと彼女は言った俺たちの近くのピオニール団と教師の間でざわめきが走った俺たちはもう三十分もここに立っているするとやつらがやってきたオートバイそれから小型パトカーそれから大型車やつらは行ってしまった地面には子供百貨店の紙の小旗が落ちている遅れてやってきたMZオートバイがバシャバシャと水溜まりを走りぬけ俺の新しいスーツはおじゃんだ

俺は十六歳だけど身分証明書を忘れたと言ったじゃあどうするんだマッツェが自分のを見せた俺たちは居酒屋シュテルンヒェンでビールを飲んだその前にもう居酒屋ベルリンで四杯飲んでいたシュタインベルクが左の前腕を見せた三つの文字みたいな傷跡はベルリンサッカークラブの頭文字bfcと読めたでも俺はユニオン派だと俺は言ったこのブタ野郎とマッツェが言って俺の胸を殴ったシュタインベルクがポケットナイフを取り出しテーブルクロスで拭った腕を出せ俺はビールをもう一杯くれと言ったマッツェがやつのビールを俺の頭にぶっかけたさあどうぞ家で目が覚めたパスルームのドアには灯台バスタブには血がこびりつき俺の腕にはbfcの文字があったお袋が叫んだ俺は敗血症で医者に行く羽目になった

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このような形式で30篇ほど進んでいきます。特殊で読みにくいかもしれません。

わたしはこれを最初に読んだとき、記憶が走馬灯のように恐ろしい速さと量で流れる中、ざっと手で掬い取った言葉のかたまりのように見えました。

面白いなと思うのはそんな印象にも関わらず、自虐ネタや女の子といる時の高揚感が失われずに残っていることです。

話の内容は少しづつ進むにつれて、どんな子とつきあい遊んだのか、親友の話、あるいは子供をおろしたこと、大学進学についての難しさと、広がっていきます。

変わらないこの「俺」の少し凡庸な姿が気になりました。

東ドイツの頃の用語が難しいので少し解説を加えます。

*チャイカとタトラの大きなリムジン  東ドイツ政府の専用車

*ピオニール団  小学校に入ると社会主義思想の一つである集団意識を高めるために入団するボーイスカウトのような少年団のこと。旗振りや行進を行う。宗教上の理由を省けば約75%の男女が加盟する。政治への興味と理解を深め、入団によって大学進学に有利になった。

*身分証明書  東ドイツでは16歳から飲酒可能(強いお酒を除く)。購入の際に提示する。

*ベルリンサッカークラブbfc  正式名ベルリーナFCディモナ、シュタージ(国家保安省、秘密警察)の支援を受け、審判に圧力をかけ、試合結果を不正に操るなどで悪名高忌み嫌われた。

*バスルームのドアには灯台  海外の浴室にはバスルームを海に見立てた絵や置物を置くことがある。灯台の絵も同様。ここでは本来可愛らしい灯台の絵とこびりついた血の対比になっている。

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